COLUMN

こたつと鍋とローソファと

文:だいご

いつの頃からか、こたつで鍋料理を囲みテレビ特番を見て年末年始を過ごす事が、我が家の毎年の慣例となっていた。
前年の余り物のイワタニのオレンジ色のボンベを恐る恐るセットし、こたつの上のカセットコンロに火をつける。 バーナーヘッドの周りを青い火がグルっと一周し安堵するもつかの間、台所から調理済みの鍋が持ちだされズシッとした重量感とともにカセットコンロの上に設置される。
グツグツと音を立てる鍋。蓋を開けると白い大量の湯気とともにその正体を現す。ネギ、豆腐、鶏肉、しいたけ等色鮮やかな食材を目の当たりにするとさらに食欲がそそられる。
こたつの温度は目盛りが常に「3」に設定されている。熱い鍋を囲むときはこのくらいの温度が程よいのである。 そして、面白いのか面白くないのか分からない年末のテレビ特番を見て、魂が抜けたように年を越す。これが毎年変わることなく繰り返される。

上記のような一般家庭に鍋料理が普及するキッカケとなった要因として、前述した「イワタニ」を代表とするメーカーが製造するカセットコンロの普及が大きな役割を果たしてきた。
またそれ以前、明治時代に「ちゃぶ台」が普及した事により、旧来の「箱膳(はこぜん)」文化が衰退した事も忘れてはならない。江戸時代の主流は現在賛否両論ある「個食」であり、一つの食器をみんなでつつくという食習慣は極めて最近の事だという。 「ちゃぶ台」に温熱器を取り付けた「こたつ」。「カセットコンロ」という鍋を温めるために生み出された怪物。 こうして、冷静に観察すると何気ない年末年始の食卓は、テクノロジーとインテリアの目に見えない改良によって変化し、支えられている事が見えてくる。
しかし変わらない事もある。それは、「床に座る」という習慣だ。西洋式のテーブルや椅子が普及してはいるものの、やはり日本人の生活は床と共にあるのではないだろうか。

固い床に座るため先人は「座布団」、「座椅子」といったツールを開発し生活の向上に役立ててきた。そして、この「床に座る」という行為についても、21世紀に入り新しい波が生まれている。


日本人が数千年固い床の上で身を正して暮らしてきた事を考えると、この新しいインテリアがどれだけ革新的かお分かりになるだろう。

過去の食習慣が「ちゃぶ台」や「カセットコンロ」により一変したように、「こたつと鍋とローソファ」が新しい年末年始の風物詩になる日もそう遠くはないのかもしれない。

ショートエッセイ「こたつと鍋とローソファと」